経験価値マーケティングとは?意味と事例を分かりやすく解説

経験価値マーケティング

現代社会では、もはやモノによるニーズの充足は十分な領域に達しつつあり、「モノ消費」から「コト消費」へとニーズが移行していると言われています。そのため、企業は自社の提供する「モノ」の魅力をアピールするだけでなく「コト消費」を前提とした経験を重視したマーケティングが求められつつあるのです。これを経験価値マーケティングと呼びます。

しかし、実際の取り組みにおいてどうすれば顧客にとって上質な「コト消費」を促すのかを分からない人もいるでしょう。そのような方向けに、今回は経験価値マーケティングの意味や事例、重視される理由について分かりやすく解説していきます。

    目次

経験価値マーケティングとは

経験価値マーケティングとは「モノ消費」から「コト消費」が重視される時代において、顧客が製品サービスを利用する事で得られる体験・経験に焦点を当てたマーケティングです。この理論は、コロンビア大学ビジネススクールのバーンド・H・シュミット氏によって提唱されました。「体験や経験」に焦点を当てたマーケティングでは、製品サービスそのものの性能やメリットを伝える事ではなく、消費者がそれを使って得る印象に働きかける事を重視しています。

これにより、製品サービスそのものに対する印象だけでなく、企業の印象も上げられることから、ブランド戦略の一環としても活用されています。経験価値マーケティングを活用している身近な例の1つに、化粧品のテスターなどが挙げられるでしょう。化粧品はどんなに成分や色・質感について説明されても、実際に使用してみなければ自分に似合っているのかや、自分の肌に馴染みやすいのかが分かりません。そこで、テスターを使って軽く化粧をする事で、どの程度相性が良いのかを確認する事が出来ます。

上記の例のように、消費者が気になる製品サービスの体験・経験を通じる方が、購買に繋がる可能性が向上します。実際に、手に取って触れてもらう事で製品サービスの良さを知ってもらう。これが経験価値マーケティングの本質です。

参考:顧客経験|グロービス知見録

経験価値マーケティングが注目される理由

従来のマーケティングでは、自社製品の価値をしっかりと伝えた上で購入してもらうには、広告を継続的に配信する必要がありました。また、この過程において「消費者」ではなく「商品」が大きな主語となり、マーケティングにおいて大事な顧客視点が抜けていました。

また、顧客が購買に至るまでの要素がそこまで細分化されておらず、効果測定をしづらい上にマーケティング戦略が細分化されていないが故に売上が伸び悩んでしまう事も多かったのです。そのため、顧客視点を大切にして「モノ消費」ではなく「コト消費」が重宝し、顧客が商品購買までの過程において経験する価値を高める事に焦点があてられるようになったのです。

「消費者」ではなく「商品」が大きな主語となってしまうと、製品サービスの価格や機能ばかりに目がいき「消費者が商品を使用する先に見据えるコト」に目がいかず、売り上げを伸ばすための本質が見えなくなってしまいます。経験価値マーケティングを意識すると、このような事態を避けることが可能になるわけです。

経験価値マーケティングにおける5つの構成要素

経験価値マーケティング 構成要素

シュミットは戦略的価値モジュール(SEM)を提唱し、顧客経験価値に繋がる要素として5つの経験があるとしました。5つの経験価値の要素は「Sense:感覚的経験価値」「Feel:情緒的経験価値」「Think:創造的・認知的経験価値」「Act:肉体的経験価値・ライフスタイルを通じる価値」「Relate:所属する集団や文化の中で得る価値」に分類されます。では、各要素について下記で詳しく見ていきましょう。

Sense

「Sense:感覚的経験価値」とは、消費者の五感に訴求する要素です。

  • 味覚
  • 聴覚
  • 触覚
  • 視覚
  • 嗅覚

これらを通じて消費者が得られる価値をSense(感覚的経験価値)と呼びます。また、Senseでは消費者の印象も含まれます。例えば、高級腕時計を消費者が見た際に「このブランドの良い部分が反映されている」「質感がよさそう」などといったイメージも該当するのです。視覚では、色や形などのデザイン、聴覚ではリズムや音の大きさ・高低、触覚では品質や肌触りにこだわる事で、Sense(感覚的経験価値)を通じて効率的に顧客経験価値を高めることが出来ます。

企業のブランド戦略では、ビジネスの展開において各五感に対するイメージを統一させる事で、消費者から「○○といえばあのブランド」と想起してもらえる可能性が高まります。

Feel

「Feel:情緒的経験価値」は、ブランドに対する愛着心やブランドに抱く感情的な価値を指します。この価値は「気分」と「感情」に分けられます。「気分」は、消費者が抱く軽度の経験で、何故そのような気分になるのかを詳しく特定できません。例えば、「今日は何となくパスタを食べたい」といった思いが該当します。

一方で、「感情」とは何故その思いを抱いたのかを特定できる重度の経験を指します。例えば、「NikeのファンがNikeのシューズを購入した」際は、感情が引き金となり消費したと言えるでしょう。Feel(情緒的経験価値)は、サービスを受けている最中に強く高まります。例えば、「レストランでの丁寧な接客」「試着中の定員の発言や態度」が考えられます。

企業は出来るだけFeel(情緒的経験価値)において、出来るだけ「気分」から「経験」へ消費者の気持ちをシフトさせることが求められます。そのための具体的な施策は下記のとおりです。

  • 体験イベントの開催
  • コラボレーション企画
  • 地域イベントや季節イベントの開催

これらを駆使して、消費者の情緒的価値を最大限に高めていきましょう。

Think

「Think:創造的・認知的経験価値」とは、顧客があれこれと考えたうえで企業やブランドに対してつける評価です。Think(創造的・認知的経験価値)に訴求したマーケティングを行う際は、顧客が自発的に興味・関心を抱き、宣伝する製品サービスについて情報収集をしたくなるように思わせる必要があります。この行動をさせるための具体的な施策は下記のとおりです。

  • ターゲットの抱える悩みを理解している事を示すコピーの使用
  • 多くの消費者が抱く認識を覆すメッセージによる訴求
  • 自社製品により得られる効能を分かりやすく伝える

Think(創造的・認知的経験価値)において、顧客経験価値を高揚させるには自社の製品サービスについて十分な情報提供をするようにしましょう。また、消費者が抱える根本のニーズを理解している事を示す事で、消費者に自発的な行動を促す事が出来ます。

Act

「Act:肉体的経験価値・ライフスタイルを通じる価値」とは、顧客が実際に製品サービスを体験する事で得られる価値です。実際に体験してもらうまでのハードルは高いですが、上手くActまで繋ぐことが出来れば購買まであと一歩の状況を作り出す事が出来ます。

「マッサージ体験」を例に見てみましょう。顧客がマッサージを受けている最中の接客を気に入り、ビフォーアフターの外見上の変化を著しく感じるようであれば、体験を通じてサービスの購買に繋がる可能性が高まるでしょう。サービスの提供では、提供サービス自体だけでなく接客やアフターケアなど、消費者に対して包括的なサービスを行う事がリピート顧客を増やす上でも大切です。

Relate

「Relate:所属する集団や文化の中で得る価値」は、集団の一員の自覚や同じ文化の共有によって得られます。この経験では、仲間意識を芽生えさせたり、コミュニティにおける繋がりを意識させることが大切です。

オタク界隈を始めとして、会員制サービスを受容するコミュニティやSNSでのコミュニティにより、Relate(所属する集団や文化の中で得る価値)は刺激されます。そのため、ブランド戦略の一環としてRalateに積極的に取り組む企業も増えてきました。

経験価値マーケティングのメリット

経験価値マーケティングによるメリットは様々です。ここでは、大きく2つに分けてメリットを解説していきます。

差別化に繋がる

従来の「モノ消費」が注目されていた時代では、ただ単に製品サービスの質を高める事に注力して差別化を図る企業が多かったです。しかし、「コト消費」が浸透し始めたことで、差別化に繋がる要因として新たに「顧客経験価値」の概念が生まれました。

これにより、各企業は顧客が製品サービスに触れる入口から出口において、どこに焦点を当ててマーケティングを行うかで差別化を大きく図ることが出来るようになったのです。

自社ブランドに対する愛着を湧かせられる

経験価値マーケティングでは、実際に消費者が製品サービスに触れる体験に焦点を当てています。この時、ターゲットが体験を通して購買へ繋げることが出来れば、何気なく買ったモノよりも強く愛着を抱くようになります。

例えば、化粧品店で店員に軽くメイクをしてもらったり、イベントを通じて買った製品サービスが挙げられます。もし、顧客が感じた経験価値が高ければリピート顧客として自社製品を購入してくれるでしょう。

 

経験価値マーケティングの5つの事例

経験価値マーケティングを実務に活かす際は、如何にして消費者に「体験を通じて価値を感じさせるか」がキーポイントになります。この章では、実際に様々な業界の事例を通じて、経験価値マーケティングへの理解を深める事を目的としています。

スターバックス

大手コーヒーチェーン店であるスターバックスは、単に飲食物を提供するだけでなく「サードプレイス」として、消費者が居心地の良い空間を演出しています。

お洒落な内装や明るい接客サービス、Wi-Fiやコンセントを完備する事で、顧客体験の質を高めています。

また、場合によっては店の外装や内装を地域に合わせてデザインする事で、消費者の感覚的経験価値を向上させるなどの工夫を凝らしています。

ディズニー

ディズニーでは、「非日常感の演出」にこだわりディズニーリゾート内から高層ビルを見えないように配慮して立地を立てるなどの工夫を凝らしています。

また、洗練されたキャストによるディズニースタッフらしい接客や、映画をそのまま再現したかのようなパレードやアトラクションを催すことで強固な顧客基盤を完成しました。

そのため、ディズニーリゾートの来場により得られる経験価値はとても高く、リピート顧客は約90%にも上ります。

星野リゾート

星野リゾートでは、蓄積された顧客データを活用する事で、顧客にとっての体験価値を高めています。

その精度は凄まじく、宿泊客の性別や年齢などの情報から、宿泊客の好みに合わせた水を特定し、事前に要望を聞かずとも好みの水を部屋に用意出来る程です。

また、星野リゾートでは現場社員にコンセプトづくりを任せているため、従業員の中で帰属意識が生まれ自ら能動的に接客をする仕組みが構築されています。そのため、顧客の経験価値を上げるために何をしたら良いのかを、社員全員が考えながら仕事をする事で、上質な経験価値を提供できているのです。

アディダス

スポーツ業界大手であるアディダスは、新宿区にあった店舗を体験型店舗としてリニューアルオープンしました。

ここでは、気になるスパイクを履いてサッカーボールを試し蹴りする事が出来ます。そのため、実際にスパイクを履いてみないと分からない履き心地やボールを蹴る感覚などの使用感を掴め、スムーズに購入へ繋げられるのです。

試し蹴りを提供する事で、単に売り上げを伸ばすだけでなくアディダスに対するブランドロイヤリティを高める事にも寄与しています。

Nike

スニーカーを中心に、若者をはじめとして多くの年代層から支持されるNikeは、リアルとオンラインを繋げたアプリ開発により成功を収めました。

事前にNikeアプリにログインした状態で店舗へ足を運ぶと、試着・決済・商品の取り置きが全てアプリ上で完結できるのです。

また、アプリ会員者に対する限定商品の販売やクーポンの適用などの特典があり、これらを通じて顧客体験価値の向上に努めています。

まとめ

経験価値マーケティングは、「モノ消費」を前提として「コト消費」にも注目したマーケティングです。そのため、単に顧客体験価値を向上させることを目標にするだけでなく、それを保証する製品サービスの品質も向上させなければなりません。これからの時代、顧客は何を求めているかを明確にし、そのためにすべき事を漏れなく効率的に行える企業が生き残ります。このような時代の流れにおいて、経験価値マーケティングは一層重宝されていくでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です