企業は日々新商品を開発しますが、消費者が既に需要を満たす他社製品を有している場合には、製品サービスの切り替えコストを考えなければなりません。ビジネスの世界では、これをスイッチングコストと呼びます。
一般的に、消費者は製品を享受する事による直接的なメリットだけでなく、金額や心理的側面も加味して製品の切り替えを行います。
新製品開発の際にはスイッチングコストを考慮しないと、思うように顧客を囲えず失敗に終わる可能性が高まります。そのため、今回の記事ではスイッチングコストについて意味や事例を交えて分かりやすく解説しています。
目次
スイッチングコストとは
スイッチングコストとは、消費者が利用している製品サービスから別会社の提供する製品サービスに切り替える際に負担するコストを指します。
参考:スイッチングコスト 意味
コストと聞くと、金銭を思い浮かべる人もいますが、その他にも物理的コスト・心理的コストもスイッチングコストに含まれます。
金銭的コスト
金銭的コストとは、消費者が新たな製品サービスに切り替える時に負担する金額を指します。
例えば、消費者が新たに10万円のスマートフォンを購入する場合、「10万円」がスイッチングコストの金銭的コストに該当します。
一般的に企業が新製品の販促をする際には、販売価格の引き下げをすることで消費者の製品サービス利用の切り替えを狙います。
物理的コスト
金銭的コストの引き下げを行わなくて済む場合の1つに物理的コストを引き下げる事が挙げられます。
物理的コストとは、「新たな製品サービスの購買にかかる手間や時間」を指します。物理的コストの具体例は以下の通りです。
- 新たな製品サービスの操作および利用法を覚えるための時間
- 新たな製品サービスを利用する事による作業効率
- 新たな製品サービスの導入にかかる時間
一般的に、ガラケーよりもスマートフォンの方が出来る事が多いですが、お年寄りの方の中にはガラケーを好んで使う人もいます。
何故なら、操作性が複雑で扱いずらいと感じることがあるからです。それなら、今まで通りガラケーを使っている方が良いと感じガラケーを使用し続ける人も多いのです。
心理的コスト
心理的コストとは、新たな製品サービスに切り替える時に発生する精神的負担を指します。
心理的コストの具体例は以下の通りです。
- 新たに製品サービスの扱い方を学ばなければならないプレッシャー
- この製品サービスが自分にとって便益のあるものかどうか分からない
- ブランドへの愛着
ブランド志向の強い消費者は、心理的コストが高く働き他のブランドへの切り替えをする事がありません。逆に、言えば、彼らを囲い込むことが出来れば、優良顧客となってくれるのです。
消費者がスイッチングコストを克服する条件
消費者がスイッチングコストを克服して製品サービスの乗り換えをするには一定の条件を満たす必要があります。
これを分かりやすく式に起こしたのが下記のとおりです。
- 新たな製品サービスの価値-スイッチングコスト>既存の製品サービスの価値
前提として存在するのは新たな製品サービスが既存の製品サービスよりも価値があるということです。そのうえで、スイッチングコストを負担してでも利用したいと思わせる価値のある製品サービスを創出することが企業には求められます。
例えば、どこでもドアが販売されたとしても金銭的コストが高すぎたり、操作性が複雑すぎると購買してくれる可能性はぐんと下がるでしょう。
そのため、新製品サービスを開発する際には如何にしてスイッチングコストを下げるかを意識しましょう。
スイッチングコストと2つの価値
消費者が製品サービスを購買する際に感じる重要な価値には2種類あります。それが機能的価値と情緒的価値です。
機能的価値
「機能的価値」とは、「製品サービス自体の機能により得る価値」です。製品の品質や性能、製品のサポートやアフターサービスは全て機能的価値に該当します。
機能的価値がスイッチングコストを克服した例は以下の通りです。
- 「剃り残しが無く、刃も長持ちする剃刀の購入」
- 「従来の3倍の充電量のバッテリーの購入」
- 「落としても芯の折れない鉛筆の購入」
機能的価値は、消費者に対する便益が伝わりやすい為、企業はこれを磨くべく製品サービスの開発に励んでいます。
情緒的価値
「情緒的価値」とは、「製品サービスの利用や所有により得られる満足感」を指します。ブランドやデザイン、質感などが情緒的価値に該当します。
情緒的価値の特徴は、製品サービスの利用が利用者の自己表現や社会的評価に繋がる事です。情緒的価値の例が以下の通りです。
- 「ブランド物を持つことで得られる満足感」
- 「優越感を得るためにブランド物を所有する」
- 「好きなブランドの製品サービスを利用する」
情緒的価値により顧客を引き付けることは難しいですが、ひとたび獲得できれば根強いファンに繋がるのがこの価値の特徴です。
競合への流入防止とスイッチングコスト
企業は自社の顧客が他企業へ流入しない為に様々な工夫を施しています。ここでは、スイッチングコストを高めることにより他へ顧客が流れることを防ぐ方法を紹介しています。
1つ目は「ポイント制の導入」です。そうすることで、ポイントを消費しないと損をするという心理状態を作り出し他企業への流入を防ぎます。
理容室業界では差別化を図りずらいため、スイッチングコストを高めることで他社への流入を防いでいます。
2つ目は「製品サービスの最初の利用障壁を低くすることです。」T字カミソリで有名なジレット社は、カミソリの柄の部分を無料で提供し替え刃を付属品として安く販売する事で多くの顧客を獲得しました。顧客が柄を所有していることで、心理的コスト・金銭的コストにおけるスイッチングコストを高く感じさせ、他企業への流入を防ぐのです。
このビジネスモデルの詳細はジレットモデルの事例を基にメリット・デメリットを紹介し徹底解説の記事をご覧ください。
まとめ:3つのコストを意識したマーケティングが成功のカギを握る
スイッチングコストで意識するポイントは金銭的コスト・物理的コスト・心理的コストです。さらに、その先にある機能的価値と情緒的価値を意識する事で他企業の顧客を奪えるばかりか、他企業への流入を防ぐ事が可能になるのです。
モノの充足から精神の充足へと変化した現代では、スイッチングコストを意識したマーケティングをしましょう。
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