学習する組織とは?5つのディシプリンや阻害要因を交えて解説

良い組織になるためには、個人レベルに留まらず組織単位で学習する必要がある。かつて、セゲンはこれを主張し「学習する組織と5つのディシプリン」を唱えました。しかし、「学習する組織」や「組織レベルでどのように学習する」のかについて良く分からない人もいると思います。

そのような方向けに、今回の記事では「学習する組織」について5つのディシプリンや阻害要因を交えて分かりやすく解説していきます。

    目次

学習する組織とは

「学習する組織」とは、ピーター・M・センゲによって提唱された組織の概念です、

学習する組織における「学習」は、単なる知識の習得のみならず、思考や行動のパターンを変えていくことも学習と見なします。つまり、戦略の実行において戦略の背景をの理解だけでなく、思考や行動パターンの変化が重要になる事から組織学習の体系的な構築を彼は主張しているのです。

彼は、学習を個人レベルで留めるのは効率が悪いと主張しています。学習の成果を組織で共有する事で組織全体の知見や技術向上を目指し、ひいては経営環境の変化に対する対応力強化に結びつくように学習が文化として刻まれた組織を理想としています。

つまり、経営環境の変化に適応できる強さを養い、トップダウン型の管理型組織ではなくどの層でも自由に発言して行動できる組織になる事が重要だと説いているのです。例えば、ITの登場により加速度的に変化する経営環境において、経営層だけでなく現場社員との共通認識を揃える事で変化に対応し、組織や戦略をアップグレードさせる事などが挙げられます。

参考:グロービス経営大学院|学習する組織とは

学習する組織における3つの柱

学習する組織になるためには、3つの柱が必要です。提唱者であるセンゲは、この柱のバランスを保つことが重要で、1つの柱にだけ特化したり手を抜いてもいけないと主張しています。

  1. 志の育成
  2. 共創的な会話
  3. 複雑性に対する理解

それでは、この3つの柱についてそれぞれ見ていきましょう。

志の育成

「志の育成」とは、自律して自らを動かす力を指します。

一言で表すと、従業員個人や会社組織が望む事を抱き、その実現に対して自ら取り組む意志や力です。ありたい姿を胸に、その実現に取り組む社員の意志(自己マスタリー)を高め、組織やチームの志(共通ビジョン)とする事で、自律した個人が志を持って働く組織を目指します。

共創的な会話

「競争的な会話」では、個人や組織が抱く思考を考え抜く話し合いを指します。この会話では、各々が抱える先入観や前提条件を取り払う事が大切です。

そのようにして思い込みを消す事により、皆が納得する「最善の策」である選択肢を選ぶことが重要だとされています。

複雑性に対する理解

「複雑性の理解」とは、様々な繋がりにより構築される仕組みやシステムの全体像とその背景に対する理解を指します。

当然、組織に所属する個人のバックグラウンドや取り巻く環境は異なるため、各々の関係性を明確に理解する事が求められてきます。そのためには、後述する「システム思考」が必要であると説かれています。

学習する組織における5つのディシプリン

「学習する組織」の提唱者であるセンゲは、その実現のために必要な要素に「5つのディシプリン」を挙げています。

この5つのディシプリンがしっかりとしている企業は、環境変化に迅速に対応できる強さを備えていると主張しています。また、5つのディシプリンを磨くことで「学習する組織の3つの柱」を安定させることが出来ます。具体的な5つのディシプリンは下記の通りです。

  1. システム思考
  2. 自己実現と自己研鑽
  3. メンタルモデルの克服
  4. 共有ビジョンの構築
  5. チーム学習

それでは、それぞれのディシプリンについて見ていきましょう。

システム思考

「システム思考」とは、特定の事象に捉われずに問題の対処法を探る思考法を指します。ここで大事なのは、特定の事象に捉われず問題の要素における関係性に着目して、全体像とその動きを把握する事です。

例えば、ある飲食店が売上が上がらないため、低コストで仕入れた低品質の食材を使い、これまで通りの値段で客に料理を提供したとします。
すると、既存顧客は低品質な味に嫌気が指し、これまではリピートしていたこの飲食店の利用を控えるようになります。
その結果、この飲食店の売上はさらに落ち評判も下がる悪循環が形成されてしまいます。

このような状況を避けるためにも、現状の問題に対して広い視野を持ちつつも各要素の関係性に着目して思考する事が大切です。

自己マスタリー

「自己マスタリー」とは、社員個人のビジョンや欲求を探ると同時に、現状とのギャップを認識してそれを克服してなりたい姿を目指す行動を指します。

仕事を通じてどのように成長し、どのような人物になりたいかを考える事が重要です。また、理想と現状のギャップを的確に把握する事も大切です。自己を過小評価もしくは過大評価してしまうと、なりたい姿に向けた努力が無駄になるかもしれません。

メンタルモデルの克服

「メンタルモデルの克服」とは、個人や組織が抱える固定観念や潜在的イメージの克服を指します。

一般に、人間には無意識のうちに行う行動があり、気づかないうちに先入観に基づいて行動しているとされています。そのため、自社や競合・市場に対して個人や組織が抱くメンタルモデルを表層に呼び起こし、克服するための取り組みが重要です。そのためには、先述した「共創的な会話」の柱を構築を意識して各自が抱える先入観を正す作業が必要です。

共有ビジョンの構築

「共有ビジョンの構築」とは、個人が抱えるビジョンから組織のビジョンを導き組織構成員が本当に望む将来像の構築を指します。ここでは、共有ビジョンを個人が自分のビジョンでもあると捉えて共有している事が重要です。

具体的に共有すべきビジョンが下記の通りです。

・我々はどうなりたいのか
・我々はどんなバリューを生みたいのか

チーム学習

「チーム学習」とは、組織において個人のメンタルモデルを組織構成員同士で対話する事を指します。

構成員間における対話により、複雑な問題を追及する事で、個人で考えるよりも良質な問題解決法を模索していきます。そのため、組織に関係する全ての構成員が対話をし、次なる一手を考える事が重要だとされています。

学習する組織を阻害する7つの要因

学習する組織の構築は、上記で紹介した要素を押さえていれば構築できると思われがちですが、それだけでは不十分です。学習する組織を阻害する要因も存在するからです。ここでは、下記に記した7つの阻害要因について詳しく解説していきます。

  1. 特定の事象に対する執着
  2. 役割に対するこだわり
  3. 責任の押し付け

1.特定の事象に対する執着

特定の事象に対して執着しすぎるのは良くありません。先の飲食店の例では、売上が落ちたという問題のみに焦点をあてたが故に雑な対応をしてしまい、結果として売上のさらなる低下を招いてしまいました。

世の中で起きる事象の全てには因果関係があります。そのため、ある事象が起きた場合にはその事実だけに焦点をあてるのではなく、問題が起きた要因を多角的に分析してから最善策を導くようにしましょう。

2.役割に対するこだわり

組織に所属している以上は「営業」「マーケティング」「上司」「部下」など一定の役割に沿って仕事を行います。しかし、役割に対する過度なこだわりは組織を腐らせる可能性があります。例えば、現場で働く下っ端社員が会社で共有している営業スタイルが不効率で成約率も悪いと感じているとします。しかし、「自分は下っ端で経営陣ではないからこのままでいいや」と認識していると、いつの間にか業績が落ちひいては倒産を招く可能性もあります。

「学習する組織」の本質は、誰もが変化に適応し学び続ける組織の構築であるため、役割に対するこだわりは捨てるようにしましょう。

3.責任の押し付け

営業部とマーケティング部、開発部が仕事において責任を押し付け合う企業は意外と少なくありません。例えば、営業担当者が「マーケティング部門が質の悪い製品を作るから売れない」と主張する一方で、マーケティングは「製品自体は良質なのに営業のやり方が悪いから売れない」と主張することもしばしばあります。

このような環境では、いつまでたっても問題の本質を掴めずに誰も得をしません。これを打破するためにも、まずは全体の関係性を見直しシステム思考により問題の見直しを図りましょう。

対処が早ければ良いという思い込み

企業はクレームが入った際に、いち早く対処して問題を解説しようと試みる傾向があります。

しかし、このやり方では問題に対処する事で顧客の抱く悪印象は薄れるものの、根本的な問題の解決には至らない可能性があります。重要なのは、「何故このようなクレームが入ったのか」を考える事です。そのため、クレーム対応には時間をかけて行い、終わった後でも何故クレームが入ったかを考える事が肝となります。

従来のやり方にこだわる

現代は、市場の変化は目まぐるしく気づいた時には既に対処し難い場合も往々にしてあります。特に、破壊的イノベーションによりいつの間にか自社の顧客が他社へ流入している事もあります。

かつて、フィルムカメラ市場で名をはせたコダックは、デジタルカメラの脅威を自覚しつつも従来のフィルムカメラビジネスにこだわったがために倒産してしまいました。一方で、富士フィルムはその技術を応用して医療業界や化粧品業界へ進出し、さらなる売上を確保しています。

過去の経験に対する執着

ビジネスの世界では、過去の成功モデルを基にしたビジネス展開は良く見られることです。しかし、それにこだわり過ぎると環境が変化した際に上手く適応できず、十分なパフォーマンスを発揮できない場合があります。例えば、部下の立場から上司になった場合が挙げられます。ビジネスの世界と学生の世界は異なる為、過去に経験した「先輩と後輩」の上下関係を「上司と部下」の関係にあてはめても当然上手くいくはずがありません。

チームでまとめて管理するマネジメント

従業員をチームでまとめて管理するマネジメントを採用する会社は珍しくありません。

しかし、このようなやり方では「学習する組織」は生まれにくいとセンゲは主張しています。上層部の人間は、部署の垣根を越えてチームを編成する事でチームワークを発揮して問題解決を図ろうとします。しかし、チームでまとめてしまうと反対意見を出さない事で、意見がまとまったように見えるだけで実は全く統率が取れていない事もあるのです。

まとめ

学習する組織の構築において、3つの柱を中心に据えて、それを発揮するための5つのディシプリンの存在が重要視されています。これらは、複雑な経営環境を分かりやすく捉えて、組織にとっての最適な解を導く手助けをしてくれます。しかし、中にはそれを阻害する要因もあるため、目的を明確にして問題を多角的に分析して社員全体で共通認識を揃える事を意識しなければなりません。そうする事で、自ずと問題に対する最適な解は見えてくるでしょう。

 

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